テクノロジー

SNSなどの広告収入において気を付けたい非弁行為について

収益を得ているアカウントが、法律について安易に言及することの危険性

まず初めに、この記事はhttps://x.com/NEWMAN_DAI こと、ニューマン社長のご指摘を一部参考にさせていただいております。この場を借りて深くお礼申し上げます。※勝手に使っているので怒られたら謝罪します。

先日、私がX(旧Twitter)でとある問題提起をしたところ、SNSにおける「非弁行為」の該非を巡って、多くの方を巻き込んだ大きな議論に発展しました。私のポストは、SNSという現代社会の縮図の中で、看過できない構造的なリスクが顕在化した一つの事例に光を当てるものでした。私が本当に伝えたかったのは、SNSというプラットフォーム、特にそこで収益を得ているアカウントが、法律について安易に言及することの危険性です。

nakayama hirotomo

夢破れたコンサル兼エンジニア。スタートアップ向けの記事からテック、エンタメ、不動産、建設、幅広く対応。

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これは特定の個人を攻撃する意図では決してなく、情報発信で生計を立てる人々、そしてその情報を受け取る全ての人々に関わる、プラットフォーム全体の健全性に関わる問題提起です。

今回は、あの一連のポストの真意と、なぜ私が「弁護士ではないと指摘する行為が非弁に該当する」可能性、すなわち「かなりグレーな状態」であると警鐘を鳴らしたのか、その法的根拠と思考の背景を、より詳しく解説したいと思います。

SNSに蔓延する「安易な正義」という病

発端は、ある方が「SNS広告を指南する人が、改正職業安定法を理解していない」という趣旨の投稿をされていたことでした。この指摘自体は、法改正の周知という点において社会的に意義のあるものかもしれません。しかし、私が問題視したのは、その指摘の内容そのものではなく、「弁護士ではない者が、収益化されたプラットフォーム上で、他者の行為の違法性を断定的に指摘する」という行為そのものに潜む構造的な危うさです。

現代のSNS、特にXは、情報の拡散速度が非常に速く、影響力のある個人の発言が瞬く間に「事実」として認知されてしまう特性を持っています。その中で、「あいつは違法行為をしている」といった指摘は、一種の私的制裁(ネットリンチ)の引き金となり、対象者の社会的信用を著しく毀損する強力な武器になりえます。

発信者がインフルエンサーとして広告収益などを得ている場合、その発言は単なる私見の表明に留まりません。フォロワーはその発言を権威あるものと受け取り、一種の「お墨付き」として機能してしまう。ここに、弁護士法が長年かけて守ろうとしてきた法の秩序を揺るがしかねない、重大なリスクが潜んでいると私は考えたのです。

なぜ「非弁行為」に該当する可能性があるのか?【詳細解説】

私の主張の根幹にあるのが、弁護士法第72条です。改めて条文を見てみましょう。

弁護士法 第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。(一部抜粋・強調)

この条文から、私がXで指摘した「グレーゾーン」がどのように生まれるのか、2つの重要な構成要件をさらに深く掘り下げて解説します。

1. 「報酬を得る目的」- SNS収益化と事業性の解釈

議論の中で最も多かった反論が、「Xの広告収入は、個別の投稿への直接の対価ではないから関係ない」というものでした。しかし、法律における「報酬」の解釈、そして「業とする」という概念は、それほど単純なものではありません。

  • 間接的な収益構造: YouTubeの広告収入やアフィリエイトブログを考えてみてください。視聴者や読者はコンテンツを無料で見ているにもかかわらず、クリエイターは広告掲載や商品紹介を通じて収益を得ています。これは、コンテンツ制作という事業活動全体に対して収益が発生するモデルです。Xの広告収益プログラムもこれと本質的に同じ構造です。継続的な情報発信によってプラットフォーム全体の価値を高め、その貢献度に応じて収益が分配される。つまり、一つ一つの投稿が収益事業を構成する一部であると十分に評価できるのです。
  • アカウントのブランド価値向上: さらに、影響力のあるアカウントが専門的なテーマ(今回は法律)について断定的な発言をすれば、そのアカウントの権威性や信頼性は高まります。これはフォロワー数の増加、エンゲージメント率の向上に直結し、長期的には広告収益の増加だけでなく、講演依頼やコンサルティング契約といった別のビジネスチャンスにも繋がります。これらもすべて広義の「報酬」を得るための事業活動の一環と見なされる可能性があります。

このように、直接的な対価関係がなくとも、収益化されたSNSアカウントでの発信活動全体が「事業」であり、その事業の一環として法的見解を発信することは「報酬を得る目的」と判断されるリスクを常にはらんでいるのです。

2. 「法律事務」- “違法性の指摘”は「鑑定」にあたる

次に、そして最も重要なのが「法律事務」の解釈です。条文には「鑑定、代理、仲裁…」と列挙されていますが、今回のケースで特に問題となるのが「鑑定」です。

法律上の「鑑定」とは、ある具体的な事実関係に対して、法律という専門的な知見を適用し、法的な意味や効果について判断を下すことを指します。「あなたのこの行為は、〇〇法の第〇条に違反する」という指摘は、まさにこの「鑑定」そのもの、あるいはそれに極めて近い行為です。

弁護士法72条がなぜこのような行為を厳しく禁じているのか。その本質は、私がXでも繰り返し述べた通り、【受け手にとって不正確な情報や誤った行動につながる危険性を排除する】ことにあります。無資格者による安易な法的断定がもたらす害悪は、計り知れません。

  • 冤罪のリスク: もし指摘が間違っていた場合、指摘された側は回復困難な風評被害を受けます。事業が立ち行かなくなるかもしれません。これは、適正な手続きを経ない私的な断罪に他なりません。
  • 誤ったお墨付きのリスク: 逆に、「この程度なら大丈夫」といった発言を信じた結果、法的なリスクを認識しないまま事業を進め、後で大きな問題に発展するケースも考えられます。
  • 社会の混乱: 法解釈には、専門家の間でも見解が分かれるグレーな領域が数多く存在します。そうした問題を、無資格者が単純化して「白か黒か」を断定し、それがSNSで拡散されることは、社会に無用な混乱と対立を生むだけです。

「影響力のある〇〇さんが言っていたから」——この一言で、多くの人々が思考を停止し、誤った情報に基づいて行動してしまう。この危険性こそ、弁護士法が防ごうとしている核心なのです。

問題の核心「法律事務」と「鑑定」という曖昧な境界

非弁行為の構成要件の中で、最も解釈が難しく、本稿の核心をなすのが「法律事件に関して法律事務を取り扱う」という部分です。特に、法律事務の一類型として例示されている「鑑定」が何を意味するのかを理解することが、SNS上の言説のリスクを評価する上で不可欠となります。

「法律事件」と「法律事務」の定義

まず、「法律事件」とは、訴訟や調停といった裁判手続き中のものに限りません。「その他一般の法律事件」という文言が示す通り、法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、あるいは将来的に紛争となる具体的な可能性がある案件を広く含むと解されています 。裁判例では、「交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件」などがこれに該当するとされています 。  

次に、「法律事務」とは、こうした法律事件について、法律上の効果を発生・変更させる事項の処理を指します 。これには、代理人として交渉することだけでなく、法律上の専門的知識に基づいて法律的見解を述べる「鑑定」も含まれます 。  

「鑑定」の現代的解釈

法務省の見解によれば、「鑑定」とは「法律上の専門的知識に基づき法律事件について法律的見解を述べること」をいいます 。この定義は抽象的ですが、近年の技術革新や社会の変化に対応する形で、その適用範囲が具体化されつつあります。  

  • AI契約書レビューサービスを巡る議論: 法務省は、AIが契約書をレビューし、ユーザーの立場に応じて「法的リスク」を判定したり、「修正文案」を提示したりするサービスについて、弁護士法第72条の「鑑定」に該当しうるとの見解を示しています 。AIにはもちろん弁護士資格はありません。しかし、そのアウトプットが、契約条項の具体的な文言からどのような法律効果が発生するかを判定し、法的観点から有利・不利の評価を加えるものである以上、それは「法律上の専門的知識に基づいて法律的見解を述べる」という「機能」を果たしていると評価されるのです 。この議論が示す重要な点は、法律が問題にしているのは、行為者の形式的な資格の有無ではなく、その行為が実質的に「法的判断の提示」という機能を持っているかどうかである、という事実です。  
  • インターネット上の書き込み削除代行業に関する判例: 近年、インターネット上の誹謗中傷記事の削除を代行する業者の行為が、非弁行為にあたるとする裁判例が確立しています 。裁判所は、ウェブサイト運営者に対して記事の削除を求める行為は、被害者の人格権という法律上の権利を行使するものであり、削除という法律上の効果を発生させることを目的とするため、「法律事件」に関する「法律事務」に該当すると判断しました 。たとえサイトの通報フォームに入力するだけの単純な作業に見えても、その本質が法的権利の行使である以上、弁護士の独占業務の範疇に含まれるとしたのです 。この判例は、SNS上での一見単純なやり取りであっても、その背後に法的権利義務の対立(「事件性」)が存在しうることを示しています。  

これらの現代的な事例から導き出されるのは、SNSという公共空間における言論もまた、「事件性」を帯びうるということです。ある投稿の適法性を巡るオンライン上の論争は、投稿者の表現の自由と、社会の法秩序維持という要請が対立する「法律事件」そのものと捉えることができます。そして、その論争の中で、ある者が特定の投稿を指して「これは法的に問題がある」と断定する行為は、たとえその者に法的な専門知識がなくても、AIレビューサービスと同様に、「法的見解を述べる」という「鑑定」の機能を果たしていると評価される危険性を内包しているのです。

「グレー」であることの重要性と「法の支配」

一連のやり取りの中で、「違法かどうかは行政が判断することだ」「現に処罰されていないではないか」というご意見もいただきました。その通りです。そして、SNS上のこうした言説が積極的に処罰されていないのも事実でしょう。その背景には、表現の自由との兼ね合いや、プラットフォーマーに自主的な判断を委ねている現状があります。

しかし、「現行法で即座に逮捕されないから何をしてもいい」という考え方は、あまりに短絡的です。インターネットの黎明期、著作権侵害が野放しになっていた時代を思い出してください。当時は法整備も社会の意識も追いついていませんでしたが、それが許される行為でなかったことは今や誰の目にも明らかです。テクノロジーの進化に法や行政の対応が追いつかない過渡期においては、私たち自身の倫理観や、法の趣旨を汲み取った上での自主規制が何よりも重要になります。

私が「馬を見て鹿と言うこととどう違うのか」と問うたのは、法律の専門家でもない者が、自らの主観的な正義感に基づいて安易に他者を「違法」と断罪することの危うさを指摘したかったからです。それは、適正な手続きによってのみ公権力が法を執行するという「法の支配」の原則を、個人の手で破壊しかねない危険な行為なのです。

まとめ:発信者として私たちが持つべき責任と謙虚さ

私がこの問題提起を通じて伝えたかったのは、SNSで影響力を持ち、そこから収益を得るようになった私たちが、自らの発言にどのような社会的責任を負うべきか、という問いです。特定の誰かを論破したり、非難したりすることが目的ではありません。

今後、私を含め、全ての情報発信者は以下の点を心に刻むべきだと考えます。

  1. 断定を避け、謙虚であれ:法律に関する言及をする際は、安易な「違法」認定は絶対に避けるべきです。「〜の可能性がある」「〜という見解もある」といった表現に留め、常に多角的な視点を持つことが重要です。
  2. 一次情報を示し、私見であることを明確に:発言の際には、可能な限り法令や行政の公式見解といった一次情報源を示し、それ以降が自らの私見であることを明確に区別して伝えるべきです。
  3. 専門家への橋渡し役に徹する:「詳しくは弁護士にご相談ください」という一言を添える。私たちの役割は、問題を断罪することではなく、人々を正しい専門家へと導くためのきっかけを作ることにあるべきです。

SNSは、社会をより良くするための強力なツールになりえます。しかし、その力を正しく使うためには、発信者一人ひとりが自らの影響力を自覚し、専門領域に対して最大限の敬意と謙虚さを持つことが不可欠です。今回の議論が、SNS全体の健全な発展と、利用者のリテラシー向上に少しでも貢献できれば、これに勝る喜びはありません。

  • 弁護士法第72条の趣旨・目的について
    • 弁護士法第72条は、弁護士の権益保護ではなく、国民の権利や利益を保護し、公正な法律生活を守ることを目的とした公益的な規定です 。
    • 資格のない者が報酬目的で法律事務に介入すると、不適切な助言で国民が不利益を被ったり、法律秩序が乱されたりする危険があるため、これを禁止しています 。
  • 「報酬を得る目的」の解釈について

AI解説

この記事のポイントを要約

  • 収益化されたSNSアカウントを持つ者が、他者の行為を「違法」と断定することは、弁護士法が禁じる「非弁行為」にあたるリスクがあると指摘しています。
  • 弁護士法でいう「報酬」には、広告収入やアカウントの価値向上といった間接的な利益も含まれるため、個別の投稿が直接の対価でなくても「報酬目的」と見なされる可能性があると解説しています。
  • 他者の行為の違法性を指摘する行為は、法的な見解を述べる「鑑定」とみなされ、弁護士資格なく行うと非弁行為に該当する可能性があると論じています。
  • そのため、SNSで影響力を持つ発信者は、安易な法的断定を避け、専門家への相談を促すなど、その発言に責任を持つべきだと警鐘を鳴らしています。

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