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古巣BRANU上場。元社員が徹底解説する建設DXカオスマップと市場の勝者

先日、私がかつて在籍したBRANU株式会社が、東京証券取引所グロース市場への新規上場を承認されたというニュースが飛び込んできました 。古巣の快挙に胸が熱くなると同時に、この出来事が日本の建設業界にとって、いかに象徴的な意味を持つかを改めて考えさせられました。   

BRANUは「テクノロジーで建設業界をアップデートする」というビジョンを掲げ、私が在籍していた頃から一貫して業界の変革に挑んできた企業です 。その挑戦が市場に認められたことは、建設業界が今、大きな変革期、つまりデジタルトランスフォーメーション(DX)の波の真っ只中にいることの何よりの証左と言えるでしょう。   

本稿では、このBRANUの上場承認を一つの切り口として、日本の建設DXの最前線で今、何が起きているのかを深掘りしていきたいと思います。業界が抱える根深い課題から、現場の切実なニーズ、そしてBRANUを含む主要プレイヤーたちが繰り広げる熾烈な競争まで、その全体像を明らかにしていきます。

第1章 なぜ建設DXは待ったなしなのか?業界を揺るがす構造的危機

建設DXの潮流は、単なる技術革新への憧れから生まれているのではありません。それは、日本の建設業界が直面する、深刻かつ多層的な構造的危機に対する必然的な応答なのです。人口動態の崖、生産性の停滞、そして安全と規制の強化という三つの巨大な圧力が、業界全体をデジタル化へと突き動かしています。

1-1. 人口動態の崖と消えゆく匠の技

日本の建設業界は、深刻な労働力不足という構造的問題に直面しています。その根源は、少子高齢化に伴う労働人口の絶対数の減少と、業界特有の年齢構成の歪みにあります。

就業者数は1997年のピーク時であった685万人から、2022年には479万人へと大幅に減少しました 。この問題の深刻さは、年齢構成において一層顕著になります。2024年時点のデータでは、建設業就業者の約37%が55歳以上であるのに対し、将来の中核を担うべき29歳以下の若年層はわずか約12%に過ぎません 。これは全産業平均と比較しても著しく高齢化が進行していることを示しており、極めて不均衡な人口ピラミッドを形成しています。   

この人口動態の時限爆弾は、「2025年問題」として目前に迫っています。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり労働市場から完全に退出することで、建設業界だけでも約90万人の労働力が不足すると予測されているのです 。これは単なる人手不足ではなく、長年にわたり蓄積されてきた熟練技能と現場ノウハウの大量喪失を意味します。ベテラン技術者や職人が持つ属人的な経験や勘といった「暗黙知」が、次世代に十分に継承されないまま失われるリスクは、業界全体の技術力と品質を根底から揺るがしかねない、まさに存亡の危機と言えるでしょう 。   

1-2. 数十年間止まったままの生産性

建設業界は、他の主要産業と比較して労働生産性が低いという課題を長年抱えてきました 。この生産性の低迷は、業界に深く根ざしたアナログな業務プロセスと労働集約的な体質に起因しています。   

多くの企業では、依然として紙の契約書、図面、日報が主流であり、協力会社とのやり取りにはFAXが現役で使われているケースも少なくありません 。これらのアナログなワークフローは、情報の伝達に時間がかかるだけでなく、転記ミスや確認漏れといったヒューマンエラーを誘発し、手戻りや非効率の温床となっています。   

特に、鉄筋工事や型枠工事といった基幹的な工程では、工期短縮のプレッシャーから「人海戦術」に頼る傾向が強くあります 。これは短期的なスピードと引き換えに、一人当たりの付加価値を低下させ、労働生産性を著しく押し下げる要因となっています。   

さらに、建設プロジェクト特有の重層的な下請け構造は、円滑な情報共有を阻害します。元請け、一次下請け、二次下請けといった階層間で情報が分断され、リアルタイムでの状況把握が困難になることで、認識の齟齬や指示の遅延が発生し、プロジェクト全体の非効率を招いているのです 。また、公共事業の発注が年度末に集中するといった需要の季節的変動も、年間を通じた安定的な人員配置や稼働計画を困難にし、生産性向上の足かせとなっています 。   

1-3. 「2024年問題」という最後通牒

建設現場は本質的に危険を伴う作業環境であり、安全管理は最重要課題の一つです。厚生労働省の統計によれば、労働災害全体に占める建設業の割合は高く、特に墜落・転落事故が死亡災害の主要な原因となっています 。   

そして、これらの課題に決定的な一撃を加えたのが、働き方改革関連法によって建設業にも適用された時間外労働の上限規制、通称「2024年問題」です。2024年4月以降、月45時間・年360時間という時間外労働の上限が原則として適用され、違反した企業には罰則が科されることになりました 。これまで業界が低い生産性を補うために常態化させてきた長時間労働という「最後の手段」が、法的に封じられたのです。これにより、限られた時間内で従来と同等、あるいはそれ以上の成果を出すための抜本的な業務効率化が、経営上の選択肢ではなく、法的・財務的な必須要件となりました。   

これら「人口動態」「生産性」「規制」という三つの危機は、独立した事象ではなく、相互に影響し合う負のスパイラルを形成しています。この構造的な行き詰まりこそが、建設DXを不可逆的な潮流へと押し上げている最大の駆動力なのです。

第2章 現場の声がDXを動かす。求められる真のソリューション

マクロな業界課題は、建設現場における日々の業務の中に、無数の非効率や負担として具体化されています。建設DXの真価は、これらの現場レベルの切実なニーズを的確に捉え、テクノロジーを用いて解決策を提供することにあります。

2-1. 現場監督の悲鳴から生まれたニーズ

建設DXの導入が成功するか否かは、現場で働く人々の「痛み」を和らげられるかにかかっています。複数の調査や業界分析から、特に効率化が遅れていると認識されているのは「施工管理」のプロセスです 。現場監督や職長、作業員が日々直面している課題から、以下の5つのコアなニーズが浮かび上がってきます。   

  1. 統一されたリアルタイムなコミュニケーション 電話、FAX、メール、そして口頭指示が混在する連絡手段を一本化し、関係者全員が同じ情報をリアルタイムで共有できる「単一の情報源」が求められています 。これにより、指示の行き違いや「言った言わない」といったトラブルを防ぎたいというニーズは極めて強いです。   
  2. 定型的な事務作業の簡素化 現場監督の貴重な時間を奪う、日報作成、経費精算、請求書処理といった反復的で付加価値の低い事務作業の自動化・効率化が切望されています 。これらの業務を現場の合間や移動中にスマートフォンで完結できれば、生産性は劇的に向上します。   
  3. 場所を選ばない遠隔アクセスと管理 事務所に戻らなければ図面を確認できない、複数の現場を往復する移動時間が負担になっている、といった課題を解決するため、どこからでも必要な情報にアクセスし、進捗確認やタスク管理ができる環境が必要とされています 。   
  4. 技能・ノウハウのデジタル化と継承 引退していく熟練技能者の持つ貴重な知識や技術を、動画やデータとして記録・蓄積し、若手従業員がいつでも学べるような仕組みが求められています 。これは、OJTだけに依存しない、効率的かつ体系的な人材育成への期待の表れです。   
  5. 安全性とコンプライアンスの強化 危険箇所のリアルタイム監視、ヒヤリハットや労災発生時の迅速な報告・共有、そして「2024年問題」に対応するための正確な労働時間管理など、安全と法令遵守を担保するためのツールへのニーズが高まっています 。   

2-2. 課題を解決するテクノロジーの数々

現場のニーズに応えるため、様々なデジタル技術が建設業界で実用化されています。

  • BIM/CIM (Building/Construction Information Modeling) 建設DXの基盤となる技術で、建物の属性情報を持つ3次元モデルを作成します。設計段階で部材同士の干渉を事前に発見したり、正確な資材数量を算出したりすることが可能になります 。   
  • IoT & デジタルツイン 現場に設置されたセンサーが収集したリアルタイムデータをBIM/CIMモデルに反映させ、物理的な現場の「双子」をデジタル空間上に構築する技術です 。例えば、作業員のヘルメットに装着したセンサーで健康状態をモニタリングし、熱中症の兆候を早期に検知するといった活用が進んでいます 。   
  • AI & 機械学習 現場カメラの映像解析による進捗判定や危険行動の検知、AI-OCR技術による書類の自動データ化など、応用範囲は多岐にわたります 。   
  • ドローン & ロボティクス ドローンは広範囲の測量や危険箇所の点検に活用され、ロボットは鉄筋の結束作業や清掃といった単純作業を自動化し、省人化に貢献します 。   
  • クラウドプラットフォーム & SaaS これらの先進技術を、高価な初期投資なしに利用可能にしているのが、クラウドベースのSaaSプラットフォームです 。関係者が時間や場所を問わずに同じプラットフォームにアクセスし、最新情報を共有できる環境は、建設DXの根幹をなします。   

2-3. 国策が後押しするデジタル化の波「i-Construction」

建設DXの普及をトップダウンで強力に推進しているのが、国土交通省が2016年度から主導する「i-Construction」です 。これは、公共事業においてICT技術の全面的な活用を促す政策であり、調査・測量から設計、施工、検査、維持管理に至る全プロセスでのデジタル化を目指しています 。この政策は、公共事業を受注する企業に対してDXツールの導入を事実上促すインセンティブとして機能し、業界全体のデジタル化の裾野を広げる上で大きな役割を果たしています。   

第3章 群雄割拠の建設DX市場。古巣BRANUとライバルたちの戦略

建設業界が直面する課題と技術の進化は、巨大なビジネスチャンスを生み出しています。BRANUの上場承認も、この市場の将来性に対する投資家の高い評価を裏付けるものです。

3-1. 巨大な成長市場の幕開け

矢野経済研究所の調査によると、建築分野の建設テック市場は2023年度で前年度比11.7%増の1,845億円と推計され、2030年度には3,042億円まで拡大すると予測されています 。また、富士キメラ総研は、不動産・建設業全体のDX関連投資額が2030年度には1,514億円に達すると予測しており 、市場が持続的に高い成長を遂げることは確実視されています。   

この成長市場には、多様なプレイヤーが参入しています。「建設テックカオスマップ」を見れば、市場がいかに細分化され、多数のサービスがひしめき合っているかが一目でわかります 。   

3-2. 古巣BRANUの挑戦。中小建設事業者の伴走者として

このような市場環境の中、BRANUは2025年12月1日に東京証券取引所グロース市場への新規上場を予定しています 。   

BRANUの最大の戦略的特徴は、これまで大手ITベンダーが十分にカバーしきれていなかった中小建設事業者(SMB)市場に明確にフォーカスしている点です。契約社数は6,000社を超え、このセグメントで確固たる顧客基盤を築いています 。   

同社のサービスは「CAREECON Platform」という統一ブランドの下で提供されています 。これは単一のソフトウェアではなく、SMBの経営課題を多角的に解決するためのサービス群から構成されます。   

プラットフォームの中核をなす「CAREECON Plus」は、マーケティング・営業支援から、採用管理システムとコンサルティングを組み合わせた採用支援サービス「ninaite」 、施工管理、そしてAI-OCR技術を活用した経営管理まで、SMBの経営者が抱える複数の課題をワンストップで解決することを目指しています 。   

さらに、人手不足の企業と協力会社や職人をつなぐマッチングプラットフォーム「CAREECON」も提供しています 。   

そして、BRANUを単なるツールベンダーと一線を画す存在にしているのが、ITリテラシーが高くないSMB顧客に対し、ツールの導入から運用、経営戦略の立案までを伴走支援するハンズオン型のDXコンサルティングサービスです 。   

将来的には、5,000社以上の顧客データを統合・解析する建設業特化型AIモデル「BRANU BRAIN」の開発も進めており、経営状況のベンチマーク分析やリスク検知といった高度な経営支援を目指しています 。   

3-3. 競合プレイヤーたちの戦略分析

BRANUが戦う市場には、強力なライバルが存在します。

ANDPAD(市場の巨人) 株式会社アンドパッドが提供する「ANDPAD」は、名実ともに建設DX市場のトップランナーです。「7年連続シェアNo.1」を謳い、利用企業数は23.3万社、利用ユーザー数は68.4万人を超えるなど、圧倒的な規模を誇ります 。大手から中小まで幅広い顧客層をターゲットに、「業界のOS」となることを目指す包括的なプラットフォーム戦略を推進しています 。施工管理の基本機能に加え、営業段階の粗利管理や請求管理、さらには事務作業を代行するBPOサービスまで、バリューチェーン全体をカバーする機能拡張を積極的に行っています 。価格は初期費用が10万円程度、月額費用はライトプランで39,600円(60ID)からとなっており、小規模事業者にはややハードルが高い可能性があります 。   

ダンドリワーク(現場目線の専門家) 株式会社ダンドリワークは、「建築現場の効率と品質は、段取りで8割決まる」という哲学に基づき、現場のワークフロー改善に特化したサービスを提供しています 。開発チームに現場経験者が多いことが特徴で、直感的で使いやすいUI/UXを追求しています。特にITツールに不慣れな職人でもスムーズに利用できる「定着」を重視し、導入実績は10万社を超えます 。最大の強みは、元請けだけでなく協力会社にも操作説明会を実施するなど、手厚い導入・運用サポート体制です 。価格は初期費用が20万円以上と高額ですが、その分サポートが含まれており、月額費用は30アカウントで19,800円程度からとなっています 。   

KENTEM(エンタープライズの雄) 1988年創業のKENTEM(株式会社建設システム)は、建設DXという言葉が生まれる以前から業界を支えてきた老舗です。主力のパッケージソフト「デキスパート」は、大手ゼネコンへの導入率が98%に達し、導入企業数は約47,000社を誇ります 。長年の実績に裏打ちされた信頼性が最大の資産です。近年では、クラウドベースの情報共有ツール「PROSHARE」も投入し、チャット、スケジュール、案件管理というシンプルな機能でリアルタイムなコミュニケーションを促進しています 。   

現場サポート(コミュニケーションのスペシャリスト) 鹿児島に本社を置く株式会社現場サポートは、「チームワークの向上」をミッションに掲げ、コミュニケーションの円滑化に特化したユニークなサービスを展開しています 。公共工事における発注者と受注者間の公式な情報共有に特化した「現場クラウドOne」 と、元請けの社内チームや協力会社とのインフォーマルな連携を目的とした「現場クラウドConne」 という、用途を明確に分けた2つのツールを提供しています。特に価格設定は競争力が高く、「現場クラウドOne」は初期費用無料で1案件あたり月額9,800円(ユーザー数・容量無制限) 、「Conne」は無料プランから始められるなど 、導入のハードルを極限まで下げています。   

第4章 未来の建設業界を占う。DXの次なる戦場

各社が異なる戦略で市場にアプローチする中、建設DX市場の競争軸はさらに進化していくと予測されます。

4-1. 競争軸の進化

これまでの分析から、市場は単純な機能競争ではなく、顧客セグメントと提供価値の組み合わせによる、多次元的な競争が展開されていることがわかります。横軸に「ターゲット市場(中小企業か大企業か)」、縦軸に「製品戦略(特化型か統合型か)」を取ると、各社はそれぞれ異なるポジションに位置します。

BRANUは「中小企業向けの統合プラットフォーム」という領域で、手厚いコンサルティングを武器に独自の地位を築こうとしています。一方、ANDPADは市場全体をカバーする統合プラットフォームとして、KENTEMは大企業向け、ダンドリワークと現場サポートはそれぞれ特定のニーズに応える特化型ツールとして強みを発揮しています。

4-2. 新たなトレンドと未来の戦場

今後、以下の4つの領域が、未来の主要な戦場となるでしょう。

  1. AIの台頭 単純な作業の自動化から、より高度な予測・生成AIへと活用が深化します。BRANUが構想する「BRANU BRAIN」のように、プラットフォームに蓄積された膨大なデータを活用し、経営のベンチマーキングやリスク予測を行うAIサービスが、決定的な競争優位の源泉となるでしょう 。   
  2. プラットフォームの連携とAPIエコシステム 市場が成熟するにつれ、単一のプラットフォームですべてを完結させるモデルは限界を迎える可能性があります。会計ソフトやERP、さらには競合のDXツールとさえもAPIを通じてシームレスに連携できる、オープンなエコシステムを構築できるかが重要になります。
  3. データという新たな資産 最も大規模で質の高い建設オペレーションデータを保有する企業が、最も優れたAIモデルを開発し、最も深い経営インサイトを提供できるようになります。データそのものが、企業の最も価値ある資産となる時代が到来するのです。
  4. サステナビリティとグリーン建設 今後のDXツールには、CO2排出量の算出・管理や建設廃棄物の削減計画など、環境負荷を管理・報告する機能が求められるようになるでしょう 。サステナビリティへの貢献がプラットフォーム選定の新たな基準となる可能性があります。   

4-3. 建設DXの二つの潮流:ArentとBRANUが示す市場の多様性

建設DX市場が活況を呈する中、そのアプローチは決して一つではありません。先日、新規上場が承認されたBRANU株式会社が中小建設事業者(SMB)の経営課題全般を解決するプラットフォーム戦略を採る一方で、全く異なる哲学とビジネスモデルで市場を切り拓く企業があります。それが、2023年3月にグロース市場へ上場した株式会社Arentです。

この2社を比較することで、建設DXという巨大な市場の懐の深さと、そこに存在する多様な成功戦略が見えてきます。本稿では、Arentのユニークな取り組みを中心に、BRANUとの違いを明らかにしていきます。

4-4. Arentの哲学:「暗黙知の民主化」という挑戦

Arentの事業の根幹には、「暗黙知を民主化する」という非常にユニークなミッションがあります 1。これは、特定のベテラン技術者の頭の中にしか存在しない、言語化・マニュアル化が難しい高度なノウハウや設計思想(暗黙知)を、数学的なアプローチで解き明かし、誰もが使えるデジタルなシステムへと昇華させることを意味します 4

同社がターゲットとするのは、主に大手ゼネコンやプラントエンジニアリング企業です 5。これらの企業は世界トップクラスの技術力を持ちながらも、その多くが特定の熟練技術者に依存しており、技術継承や生産性の向上に大きな課題を抱えています。Arentは、この「宝の持ち腐れ」とも言える状況にメスを入れます。

4-5. 独自のビジネスモデル:「プロダクト共創開発」

Arentの最大の特徴は、「プロダクト共創開発」というビジネスモデルにあります 7。これは、単にソフトウェアを受託開発するのではなく、クライアント企業と共同で専門チームを組成し、課題解決のためのプロダクトをゼロから開発。そして、完成したプロダクトの知的財産(IP)を共有し、ジョイントベンチャーなどを通じて国内外の市場にSaaSとして販売していくというものです 7

このモデルは、コンサルティングファームの課題発見力、システムインテグレーターの開発力、そしてSaaSベンダーの事業展開力を一つに統合した、他に類を見ないものです 12

その象徴的な成功事例が、プラントエンジニアリング大手・千代田化工建設と共同開発した3D CADソフトウェア『PlantStream』です 5。従来、熟練設計者が数年かけて行っていた数千本ものプラント配管設計を、わずか数分で自動化することに成功しました 7。これは、千代田化工建設が持つ世界最高水準の設計ノウハウという「暗黙知」を、Arentがアルゴリズムとしてシステムに落とし込んだ結果です。『PlantStream』は今やグローバルなSaaSプロダクトとして、海外ユーザーが半数以上を占めるまでに成長しています 5

BRANUとの戦略比較:異なる頂を目指す二つの登山ルート

ArentとBRANUは、同じ「建設DX」という山を登りながらも、そのルートは全く異なります。両社の違いを比較することで、市場の多様性がより鮮明になります。

比較項目株式会社ArentBRANU株式会社
ターゲット顧客大手ゼネコン、プラントエンジニアリング企業など 5地域の中小建設事業者(SMB) 13
解決する主要課題複雑な設計・エンジニアリング業務の非効率、技術継承 4マーケティング、採用、経営管理といったSMBの経営課題全般 17
アプローチ垂直統合型(狭く、深く):特定企業の高度な「暗黙知」をシステム化し、高付加価値なプロダクトを共創する水平展開型(広く、浅く):多くのSMBが共通して抱える課題を解決する統合プラットフォームを提供する
ビジネスモデルプロダクト共創開発 + SaaS販売 7統合プラットフォーム(SaaS)+ DXコンサルティング 13
コア技術3D CAD、BIM自動化、数理最適化、AI 22Web技術、マーケティングオートメーション、採用管理システム(ATS) 18

Arentが「技術の核心」に深く切り込み、一つの専門領域を極めることで業界全体の生産性を引き上げようとするのに対し、BRANUは中小建設事業者の「経営の土台」を広く支えることで、業界の底上げを図ろうとしています。

Arentのアプローチは、一件あたりの単価が高く、極めて高い利益率(営業利益率40%超)を誇りますが、スケールさせるには高度な専門人材が不可欠です 6。一方、BRANUのアプローチは、より多くのユーザーを獲得することでネットワーク効果を生み出し、プラットフォームとしての価値を高めていく戦略です。

おわりに

日本の建設業界は、歴史的な転換点に立っています。デジタルトランスフォーメーションはもはやオプションではなく、人口減少、生産性の低迷、規制強化という三重苦を乗り越えるための必須の生存戦略です。市場は現在、多様なプレイヤーがそれぞれの戦略でシェアを争う群雄割拠の様相を呈していますが、その水面下では、業界のデファクトスタンダードとなるプラットフォームの座を巡る覇権争いが着実に進行しています。

私の古巣であるBRANUの新規上場承認は、この巨大な変革期に秘められた市場のポテンシャルを社会に広く知らしめる象徴的な出来事です。今後数年間、技術革新、戦略的焦点の明確さ、そして伝統的に変化を嫌う業界に対して具体的な投資対効果(ROI)を提供できる能力を巡る、熾烈な競争が繰り広げられることは間違いありません。このダイナミズムこそが、業界をより生産的で、安全で、そして何よりも次世代が誇りを持って「建設って楽しい」「社会の本当のインフラを支える」と働ける魅力的な未来へと導く原動力となることを、心から、切に、期待しています。

最後に、BRANUのIPOに関する最新情報に触れておきます。

【速報】BRANUが上場届出

BRANUが27日、グロース市場への新規上場に係る有価証券届出書を提出しました。想定価格は930円。上場日は12月1日で、監査法人はEY新日本、主幹事はみずほ証券が務めます。

Arentの成功に続き、BRANUが市場にどう受け入れられるのか。その動向は、建設DXセクター全体の未来を占う上で、極めて重要な試金石となるでしょう。

nakayama hirotomo

夢破れたコンサル兼エンジニア。スタートアップ向けの記事からテック、エンタメ、不動産、建設、幅広く対応。

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AI解説

この記事のポイントを要約

  • 建設業界は「人口減」「低生産性」「2024年問題」という三重苦に直面し、DX(デジタルトランスフォーメーション)が不可避の生存戦略となっています。
  • 筆者の古巣BRANU(ブラニュー)が上場承認され、中小建設業者(SMB)向けの経営・採用支援プラットフォームで独自の地位を築いています。
  • 市場はANDPAD(巨人)、ダンドリワーク(現場特化)、Arent(技術特化)など多様なプレイヤーが競合する群雄割拠の状態です。
  • 今後はAI活用、データ連携、サステナビリティが競争の焦点となり、BRANUの上場は建設DX市場全体の試金石となります。

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