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『ディシディアFF』新作はなぜスマホ限定なのか? 一人のユーザー提言が炙り出した、スクエニとゲーム業界が抱える根深いジレンマ

『ディシディアFF』新作発表から見る、スクエニとゲーム業界のコスト意識

この記事では、『ディシディアFF』新作発表とスマホ市場を狙っているその真意と、この一件から見えてくる日本のゲーム業界、特にスクエニさんが抱える根深い問題について、改めて私の考えを述べさせていただきます。なお本日、10月14日19時からhttps://www.youtube.com/watch?v=cbTGRFzTurcでタイトルの発表とプレミア動画が公開されます。

これは単なる批判や告発が目的ではありません。一人のゲームを愛するファンとして、そして業界の未来を真剣に憂う者として、皆さまと共にこの問題を考えるきっかけになればと、切に願っております。

nakayama hirotomo

夢破れたコンサル兼エンジニア。スタートアップ向けの記事からテック、エンタメ、不動産、建設、幅広く対応。

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ファンの純粋な期待と、「スマホ限定」という冷や水

まず、大前提としてご理解いただきたいのは、私も多くのファンの皆さまと同じく、8年ぶりとなる『ディシディア』の新作発表に、心の底から胸を躍らせていた一人だということです。ティザーサイトで流れる素晴らしいアレンジBGMを聴きながら、「次はどんなキャラクターが参戦するのだろう」「PS5で、あの美麗なグラフィックスがさらに進化するのだろうか」と、大きな期待を抱いていました。

しかし、その期待は「プラットフォームはiOS/Android限定」「基本プレイ無料」という情報に触れた瞬間、大きな失望へと変わりました。おそらく、長年のシリーズファンであればあるほど、この気持ちをご理解いただけるのではないでしょうか。

私がXで指摘させていただいたのは、このプラットフォーム戦略の「もったいなさ」に他なりません。『ファイナルファンタジー』という、世界に冠たるオールスターキャストを擁する最高の素材を、なぜ最初からスマートフォンという制約の多いフィールドに限定してしまうのか。そこに、私は大きな疑問と危機感を覚えたのです。

私が提言した「両取り」戦略の真意

私が投稿で述べた、「コンソールで本格的なものを出し、スマホ版を『劣化リリース』として後から出せば両取りできた」という意見について、少し補足させてください。

『ディシディア』シリーズのファン層の中心は、キャラクターへの愛着はもちろんのこと、複雑なアクションや奥深い戦略性を楽しむ、いわゆる「コアゲーマー」であると私は分析しています。彼らが求めているのは、コントローラーを握りしめ、腰を据えてじっくりと遊ぶ、リッチなゲーム体験です。

であるならば、企業として、そしてファンに応える作り手として、まず目指すべきは最新のコンソール機で、彼らの期待を上回る「本物」のディシディアを届けることだったはずです。そこで確固たるブランドイメージと熱心なファンベースを築き上げる。これこそが、IPの価値を未来へ繋ぐための最重要課題だと考えます。

その上で、スマートフォン版を展開するのです。コンソール版のコアなゲーム性を、タッチ操作向けに最適化し、より手軽に楽しめる形で提供する。こうすることで、コンソールで遊びたいコアファンと、スマホで気軽に触れたいライトなファン層、その両方を満足させることが可能になります。まさに「両取り」です。この戦略であれば、収益を最大化しつつ、IPのブランド価値を毀損することもない。私には、これこそがファンと企業の双方にとって最善の道であるように思えてならないのです。

なぜコンソールでは作れないのか? 「高コスト」という名の思考停止

私の提言に対し、「今の時代、コンソールでAAAタイトルを開発するのはコストがかかりすぎるから仕方ない」というご意見も多数いただきました。おっしゃる通り、近年のゲーム開発費の高騰は異常なレベルに達しており、数百億円規模のプロジェクトも珍しくありません。経営判断として、より低リスクで収益性の高いスマホ市場を選ぶという理屈も、頭では理解できます。

しかし、私が本当に問題視しているのは、その「高コスト」という現状を、あたかも変えられない絶対的な前提であるかのように受け入れ、思考停止に陥ってしまっていることではないか、という点です。

スクエニさん特有の「こだわり」という名の足枷

特にスクエニさんの作品には、昔から「エフェクトやCGへの過度なこだわり」が見受けられると私は感じています。もちろん、FFシリーズが築き上げてきた「最高峰の映像美」というブランドは大変素晴らしいものです。ですが、そのこだわりが、果たして本当にユーザーが求めるゲームの「面白さ」の本質に、常に直結しているのでしょうか。

過剰な映像表現にリソースを割くあまり、開発期間が長期化し、コストが膨れ上がる。その結果、ゲームの根幹部分を磨き上げる時間がなくなったり、今回のように、そもそもコンソールで開発するという選択肢自体がなくなってしまったりしては、本末転倒ではないでしょうか。

AIという解決策から目を背けていないか

さらに深刻なのは、この高コスト体質を打破しうる強力なツールから、業界全体が目を背けがちであることです。そのツールとは、言うまでもなく「AI」です。

2025年の今、生成AIの技術は、ゲーム内の背景やキャラクターといったアセットの作成、デバッグ作業の効率化など、開発のあらゆる工程を劇的に変えるポテンシャルを秘めています。AIをうまく活用すれば、クリエイターは単純作業から解放され、より創造的で、ゲームを面白くするための本質的な作業に集中できるようになるはずです。これは、開発コストを大幅に削減できるだけでなく、ゲームの「質」そのものを向上させることにも繋がります。

「AI活用で低コスト化が容易な時代に適応すべきだ」という私の主張は、こうした時代の変化に対し、日本の大手ゲームメーカーがあまりにも鈍感なのではないか、という強い危機感の表れなのです。

利益の追求が、才能を使い潰す構造

そして、私が最も強い言葉で批判させていただいたのが、開発現場の実情を顧みない「上層部の利益優先姿勢」についてです。

これは決して単なる私の憶測ではありません。優秀で、情熱を持ったクリエイターたちが、過酷な労働環境と短期的な利益追求のプレッシャーの中で心身をすり減らし、次々と会社を去っていく。そうした現実がこの業界に存在することは、少しでも業界に関心のある方ならご存知のはずです。

IPの価値を支えているのは誰か

スクエニさんには、『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』といった、世界に誇る素晴らしいIPがあります。しかし、そのIPの価値を本当に支えているのは、経営陣の数字上の判断ではなく、一つ一つの作品に魂を込める開発現場のクリエイターたちです。

利益を追求するあまり、その最も大切な「人」という財産を使い潰してしまっては、いずれIPそのものの輝きも失われてしまいます。優秀な人材が流出し続けた先に待っているのは、ブランドの緩やかな死です。私はそれを何よりも恐れています。

そして何より私が見過ごすことができないのは、こうした経営判断が、自社の最も貴重な財産であるはずの開発チームそのものの士気を、内側から破壊しかねないという深刻な問題です。

昨今のクリエイター事情が業界に闇を落としているワケ

少し、昔と今のゲーム開発現場の違いについてお話しさせてください。

かつてのゲーム開発は、一部の専門的な技術者やクリエイターが、いわば「作り手」として、私たち「受け手」であるプレイヤーのために作品を創り届ける、という構図が主流でした。そこには、ある種の明確な境界線があったように思います。

しかし、現代は全く違います。特に『ファイナルファンタジー』のような、何世代にもわたって愛され続けてきた歴史的なタイトルの開発現場となれば、その様相は一変します。

今、その最前線で開発に携わっている方々の多くは、どのような経歴を持つ人たちでしょうか。おそらく、そのほとんどが、子どもの頃にスーパーファミコンで『FF6』のオペラ座に涙し、プレイステーションで『FF7』の衝撃的なストーリーに心を揺さぶられ、「いつか自分も、こんなすごいゲームを作りたい」と夢見て、クリエイターの道を志した人たちのはずです。

つまり、彼らは開発者であると同時に、誰よりもこのシリーズの歴史をリスペクトし、ファンの想いを痛いほど理解している、「最も熱心な古参プレイヤー」でもあるのです。彼らが本当に作りたいと願うもの。それは、かつて自分たちが体験したような、寝食を忘れるほど没頭できる本格的なゲームであり、長年のファンの期待を良い意味で裏切る、挑戦的で魂のこもった「本物」の続編に違いありません。

そこに、上層部から「コンソールではなく、スマホで作りなさい」「基本無料で、マネタイズ(収益化)を最優先に考えなさい」という決定が下されたとしたら、彼らの胸に去来するのはどのような感情でしょうか。

これは、単なる「仕様変更」や「業務命令」といった言葉で片付けられるものではありません。それは、彼らが青春を捧げ、人生の目標としてきた憧れのゲームに対する冒涜であり、自分自身のゲーマーとしての誇りやアイデンティティそのものを、会社から否定されるに等しい屈辱ではないでしょうか。

「君たちが作りたいものではなく、会社が儲かるものを作れ」。その無言のメッセージは、クリエイターの創造性や情熱という、最も繊細で尊い部分を根こそぎ奪い去ってしまいます。

魂を削られた開発チームに、最高のパフォーマンスを期待することなどできるでしょうか。「どうせ上層部は分かってくれない」「ファンが望むものは作れない」。そんな「やらされ仕事」の感覚が現場に蔓延すれば、細部へのこだわりや、プレイヤーをあっと驚かせようという遊び心は失われていくでしょう。

その結果として生まれるのは、経営陣が目論んだ「効率的に儲かるゲーム」ですらなく、情熱も工夫も感じられない、魂のこもらない凡作です。

つまり、市場にいる古参プレイヤーの意見を無視するという判断は、単に一部の顧客の声を軽視しているというマーケティング上の問題に留まらないのです。それは、自社の開発スタッフという名の「最も熱心なファン」の心を裏切り、チームの士気を決定的に破壊し、最終的にはプロダクトの品質そのものを劣化させるという、極めて深刻な経営リスクを内包している。私は、その危険性を強く警告したいのです。 

表1:退職した有名クリエイターの一覧表

退職したゲームクリエイター一覧

クリエイター名 元所属企業 主な関連作品 退職年 その後の活動 支援者/投資家
三上 真司 カプコン バイオハザード 2005 Tango Gameworks ZeniMax Media
中 裕司 セガ ソニック・ザ・ヘッジホッグ 2006 株式会社プロペ セガ
小島 秀夫 コナミ メタルギアソリッド 2015 コジマプロダクション ソニー・インタラクティブエンタテインメント
今村 孝矢 任天堂 F-ZERO, スターフォックス 2021 フリーランス、大学教授
名越 稔洋 セガ 龍が如く 2021 名越スタジオ NetEase Games
中 裕司 スクウェア・エニックス バランワンダーワールド 2021
小林 裕幸 カプコン 戦国BASARA, デビルメイクライ 2022 NetEase Games NetEase Games
市村 龍太郎 スクウェア・エニックス ドラゴンクエスト 2023 株式会社ピンクル NetEase Games
神藤 辰也 スクウェア・エニックス すばらしきこのせかい 2025 未定 未定
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「再起動の3年間」という希望と、今回の発表が示す矛盾

もちろん、スクエニさん自身もこうした問題に気づいていないわけではないでしょう。2025年5月に発表された「再起動の3年間」という中期経営計画には、「量から質へ」という力強いスローガンが掲げられています。開発体制を刷新し、主要IPにリソースを集中させるという方針転換には、私自身も一縷の望みを託したいと考えています。

だからこそ、今回の『ディシディア』新作が「スマホ限定」という形で発表されたことに、私は強い矛盾を感じざるを得ないのです。「質」への転換を宣言した直後の判断が、これなのか、と。ファンの多くが感じたであろう失望と不信感は、まさにこの点に起因しているのだと思います。

最後に私たちが本当に望むべき、ゲームの未来とは

来る2025年10月14日19時、YouTubeでのプレミア公開にて、いよいよ新作の全貌が明らかになります。私がここまで述べてきた憂慮が、全て杞憂に終わるような、ファンの想像を遥かに超える素晴らしい発表が待っていることを、一人のファンとして心の底から願っています。もしかしたら、今回のスマホ版は、私が提言した「両取り」戦略の、壮大な布石なのかもしれません。そうであってほしいと、切に思います。

今回の議論を通して、私たちが改めて考えなければならないのは、ファンと開発者、そして企業が、いかにして幸福な「三方よし」の関係を築いていけるか、ということです。ファンはただコンテンツを消費するだけでなく、時には厳しい声を上げ、作り手を応援し、育てていく。企業は目先の利益に囚われることなく、長期的な視点でIPとクリエイターを守り、ファンとの信頼関係を築いていく。そしてクリエイターは、最高の環境でその才能を存分に発揮し、私たちの心を揺さぶる素晴らしい作品を生み出し続ける。

私が本当に望むのは、そのような健全なサイクルが機能するゲームの未来です。

今回の私の投稿が、スクエニさんにとって、そして日本のゲーム業界全体にとって、自らの在り方を今一度見つめ直すきっかけとなることを、心から願ってやみません。

長文になりましたが、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

なお本日、10月14日19時からhttps://www.youtube.com/watch?v=cbTGRFzTurcでタイトルの発表とプレミア動画が公開されます。

AI解説

この記事のポイントを要約

  • 『ディシディアFF』新作のスマホ限定発表は、ファンが望む本格的なコンソール体験を無視した戦略であり、大きな失望を招いていると指摘。
  • 開発コスト高騰は、企業の過剰なこだわりやAI活用などの努力不足が原因であり、経営陣は思考停止に陥っていると批判。
  • 利益優先の姿勢が、ファンでもある開発者の士気を破壊し才能を使い潰しており、これがIPの価値を毀損する最大の問題だと糾弾。
  • この問題をきっかけに、ファン、開発者、企業が健全な関係を築き、ゲーム業界のより良い未来を目指すべきだと提言している。

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