物流センターや営業所における最大のボトルネックは、入出荷検品や仕分けにおける手動プロセスにあります。一般的なオペレーションでは、ハンディターミナルを用いて荷物のバーコードを1点ずつスキャンし、賞味期限や宛先を目視で確認します。しかし、このプロセスには物理的な限界があります。人の手による処理速度には上限があり、ECセールの開催時などの急激な物量増加に対応しきれません。また、疲労や集中力低下により、誤検品や誤出荷のリスクが常につきまといます。さらに、物理作業とシステム上のデータ更新にタイムラグが生じ、リアルタイムな在庫把握を阻害するという問題もあります。
こうした課題に対し、業界では2025年から2030年に向けてあるべき姿への転換を急いでいます。例えば、アパレル業界ではRFIDを用いた一括検品が進んでおり、ゲートを通過させるだけで数百点の衣類を数秒で検品するノー検品化が実現しつつあります。また、AIによる画像認識技術を用いて、ラベルレスで荷物を追跡する構想も進んでいます。
しかし、こうしたデジタルの理想と、実際の現場で行われているアナログな現実の間には、未だ大きな乖離が存在します。次章からは、筆者の実体験に基づき、一般的に語られることのない現場のリアルを紐解いていきます。
第2章:現場体験から見る物流の泥臭い真実
筆者が実際に物流拠点での仕分け・積込業務に従事して痛感したのは、物流とは単に右から左へ物を動かす作業ではなく、高度な暗黙知と人間関係の調整によって成り立つ、極めて人間臭い営みであるという事実でした。
情報管理上の観点から具体的な会社名には言及しませんが、ドライバー以外の荷物仕分けはコースごとに分かれています。組織としてはパート社員とアルバイトがいて、フォークリフトの資格がある社員とアルバイトが全体の指揮を執ります。これは輸送トラックから荷下ろしをして積み込む作業を行うため、拠点全体の作業進行度を把握しなければならない立場であり、必然的にその役割を担うことになります。
現場のオペレーションは、荷物を触る前から始まっています。始業時、まず行うのは自分たちが作業するための場の構築です。具体的には、各配送コースのトラックに合わせて移動式のレールを敷設し、その付近に空のパレットを配置します。
しかし、これは単なる力仕事ではありません。営業所や繁忙期などによって、既に委託事業者などによってパレットの荷物が運び込まれていることがあり、その場合は先にパレットを整理する作業が発生します。このオペレーションは初回の人には難しく、慣れていないとどこのトラックにどこのコースのパレットを配置するのかわかりません。口頭でのコミュニケーションスキルと場の空気感で、どのパレットを優先するのか瞬時に判断しなければならないのです。感覚としては狭い道で対向車が来た時に、瞬時に車幅感覚を計算して道幅に寄せ、対向車に道を譲るという判断に似ています。そのため、ドライバー経験があると相手の意図などを理解しやすいためスムーズに動けますが、未経験の学生などはこの作業を苦手としやすい傾向にあります。
その整理が終わると次に混載分けの作業があります。集積所から各拠点の営業所等に対してある程度の区分を分けられて送られてきますが、そこから更に細かくする作業があります。しかし、繁忙期などにおいてはその区分分けが集積所側で追いつかず、放棄されて営業所にそのまま投げられることがあります。これがある場合、本来集積所でする仕事を、営業所や各拠点で処理する必要性が出てきます。基本的に歴が浅い新人はこの混載分けに配属されやすいという特徴があります。
それが終わるとコース配属となります。ただし、一部のベテランは混載分けをせずに、そのままコース入りする場合もあります。ここには強烈なチーム意識と、その裏返しとしての排他性が存在します。コースごとでも住所によってトラックのどこに配置するか、この住所は委託事業者に任せているので別のパレットに置くなどのローカルルールが無数にあります。特に時間指定の荷物などは各営業所やドライバーの配送戦略によってかなり異なります。
これがこの仕事がチーム戦たるゆえんです。処理能力が高いコースチームはこの配送戦略の意図が全体に伝わっているため、作業が驚くほど早いです。逆に遅いチームは、この作業にどんな意味があるのかわからないうえに、特定のベテラン作業員の作業の意図が理解できず混乱するため、作業が遅くなるケースが多いのです。初めて配属されると、この文脈を共有していないため足手まとい扱いされ、たばこ休憩をハブられたり、口調が強かったり、扱いが雑になることもあります。
また、稀にトラック1台まるまる任される場合もあります。その場合、コースに配置されたパレットを更に細かく仕分けて、積み込みを行うという作業を同時にこなす必要があります。大きな荷物や特定の取引先(防災センターや管理棟があるビルなど)の場合は、むしろ一人で作業を行った方が早い場合すらあります。
作業としては、特記事項の内容を反映させつつ、伝票のQRをデバイスで読み取り、トラックごとに決められた住所に配置をします。しかし、想定していないイベント等で飲料の大量輸送が発生したり、Amazonのブラックフライデーやクリスマス、特定のゲーム機やちいかわ等の人気IP商品の大量発注などがあると現場は混乱します。システムで積み荷の負荷は想定していますが、ある程度の柔軟性をもって、荷物の優先順位をつけるという判断が求められます。つまり、何も考えずに頭を空っぽにして積み荷を積むと、トラックの積載をオーバーしたり、目的の荷物が下せずドライバーへの負担が増えて配送が遅れることがあるのです。ここには、システム上の数値には表れない、物理的な質量との格闘があります。
第3章:効率化による教育機会の喪失
ここで、近年急速に拡大しているタイミーなどのスポットワーク(単発バイト)と、業務のDX化(デジタルトランスフォーメーション)について深く考えたいと思います。
表面的に見れば、これらのオペレーションを自動化し、経験の浅いワーカーでも即座に戦力化できるようにすることは、コスト削減と効率化の観点から正解のように思えます。しかし、現場の肌感覚として、安易なDX化や人件費削減には大きな落とし穴があると感じざるを得ません。
この複雑で泥臭いオペレーションを知るということは、労働者にとっても会社にとっても非常にメリットが大きいのです。なぜなら、荷物をどう積めばドライバーが楽か、どの順序で仕分ければ効率が良いかという現場の論理を体感することは、将来の優秀なドライバーや物流管理者を育てるための最良の教育機会だからです。
採用や育成という面で、これをあえて中途半端にDX化してしまい、考えるプロセスを奪って単なる単純作業に変えてしまえばどうなるでしょうか。人件費は一時的に削減できるかもしれません。しかし、筆者が体感したような配送戦略や、チームごとの阿吽の呼吸、イレギュラー発生時の柔軟な判断などを理解できない作業員ばかりが増えることになります。
結果として、システムが想定していない事態(突発的な物量増や荷姿の乱れ)が起きた際に、誰も対応できず、大きなトラブルを招くことになります。機械は例外処理が苦手ですが、人間は文脈を理解していれば例外に対応できます。その文脈を学ぶ機会を奪うのが、過度な効率化の弊害と言えるでしょう。
この「効率化による教育機会の喪失」というパラドックスは、決して物流業界だけの問題ではありません。DXが進むあらゆる業界で、同様の現象が起きています。
例えば、ソフトウェアエンジニアの世界を見てみましょう。近年、AIコーディング支援ツールの普及により、経験の浅いエンジニアでもベテラン並みのコードを瞬時に生成できるようになりました。しかし、システム障害という「イレギュラー」が発生した瞬間、彼らは立ち尽くします。なぜなら、そのコードが「なぜ動いているのか」という理屈(文脈)を、泥臭いコーディングやデバッグ作業を通じて学んでいないからです。
小売業界でも同様です。AIによる自動発注システムは便利ですが、それに頼り切った店長は「明日は近くの小学校で運動会があるから、おにぎりを多めに発注しよう」といった、データには表れない街の空気感や商売勘を養う機会を失います。
物流における「パレットの積み方」も、エンジニアにおける「デバッグ経験」も、小売における「発注の読み」も、一見すると非効率な苦労に見えるかもしれません。しかし、その「試行錯誤」の中にこそ、有事の際に組織を救う応用力や、全体を俯瞰するマネジメント能力の種が埋まっているのです。
DXの名の下に、これらの「種」まで刈り取っていないか。経営者やリーダーは、短期的な数字の向こうにある、10年後の人材ポートフォリオを見据える必要があります。効率化で浮いた時間を何に投資するのか。単に人を減らすためではなく、より高度な「人間ならではの判断力」を磨くために使う視点が不可欠です。
結論:デジタルとアナログの融合点
RFIDによる一括検品や自動積込装置といった技術は、確かに物流の未来を明るく照らすものです。これらが普及すれば、パレット配置の苦悩や目視検品の疲弊は軽減されるでしょう。
しかし、現状の物流を支えているのは、未だに人の判断と現場の調整力です。AIやロボットが導入されても、イレギュラーな事態に対応し、最終的に荷物を届けるのは人です。
システム(WMS/WCS)の論理は、データに基づき最適解を秒単位で算出します。一方で現場の論理は、目の前の物理的な荷物の山に対し、経験と直感でなんとかするという力強さを持っています。この2つの論理のギャップを埋めることこそが、真の物流DXではないでしょうか。
単にツールを導入して人を減らすだけでなく、現場の作業員が持っている暗黙知(コースごとの配送戦略や積み込みのコツ)を尊重し、それを学ぶ機会を残しつつ、負担だけを軽減する。そのような、人を育てるためのテクノロジー活用が求められています。
2024年問題や労働力不足というタイムリミットが迫る中、私たちが必要としているのは、現場の人間を排除する自動化ではなく、現場の人間が職人芸を発揮しなくても回るような支援をしつつも、物流のプロフェッショナルを育て続ける土壌を守ることなのです。効率化の名のもとに、未来の物流を支える人という最大の資産を切り捨ててはなりません。